漢方診療

漢方治療について

漢方治療について

当院では、西洋医学と東洋医学のそれぞれの良いところを生かしつつ、広い選択肢の中から患者様にとって最適な医療を提供していきたいと考えています。

患者様のライフスタイルに合わせた飲みやすい漢方薬を保険医療の範囲内で処方します。漢方治療をご希望の患者様はお気軽にご相談ください。

現代医療における西洋医学と東洋医学

現代医療における西洋医学と東洋医学

現代の日本を含めた世界中の医療分野において最先端医療は西洋医学である事はゆるぎない事実です。

西洋医学はこの数百年で発展してきた医学であり、日本における西洋医学発展の幕開けは鎖国時代。かの有名な杉田玄白が日本に蘭学を持ちこんで以来、劇的に発展してきました。現代医療においては病気の診断、検査、治療(内科的、外科的)は主に西洋医学の手法を用いています。

一方で、東洋医学の歴史は大変古く中国最古の医学書(古典)である「黄帝内経(こうていだいけい)」は紀元前200年頃に書かれたと言われています。東洋医学は人類が何千年もかけて膨大な経験を元に発展してきた医学と言っても過言ではありません。レントゲンやCTが無かった時代に発展してきた医学であり経験的に使用されてきましたが、最近では西洋医学の体系の中で有効性や安全性が評価されている漢方薬も存在します。

西洋医学の強み、東洋医学の強み

西洋医学の強みは西洋医学が発展してきた経緯を辿れば見えてきます。西洋医学発展の幕開けとも言える19世紀末、当時のヨーロッパは戦争があちこちで起こっており、怪我人が続出していました。西洋医学式の解剖学から人体への対処法が理解され始めたその時代、応急処置が必要な怪我人を治せる外科的技術=西洋医学は高く評価されていました。時を同じくして、細菌やウイルスといった存在が発見され、これらを何とか対処出来れば感染症を防げるということで、これを科学的に追求する西洋医学が注目され始めました。西洋医学はそもそも外傷や感染症の治療が原点なのです。抗生物質が開発され感染症が減少したり、消毒や麻酔の技術が発展し外科手術の技術が飛躍的に向上し、それまで救えなかった命も救えるようになりました。現代ではその研究は細胞や遺伝子レベルにまで及んでおります。近年ではインフルエンザウイルスに対して増殖を抑制する抗インフルエンザ薬が開発され原因を根本から治療する新薬も出てきましたが、大部分の西洋薬は、病気によって起きている発熱、胃痛、咳きこみ等の症状を緩和したり消失したりする「対症療法」になります。

西洋医学は「対症療法」が主であるのに対し、東洋医学は本来生体が持っている内的・外的要因により生じた生体のゆがみを戻す事に主眼を置いています。病気から体を守る免疫力や抵抗力、落ち込んだ体力を戻す回復力、傷や骨折を治癒に導く修復力、細胞が生まれ変わる細胞再生力等の自然治癒力を助ける事を得意分野としております。

東洋医学では、たとえ体の一部分に起こった病気や症状であっても、体全体の異常と捉えてその改善を試みます。東洋医学的治療の際に用いられる漢方薬は、体にとって必要なものが不足した時はそれを補い、不要なものは取り除き、また冷えた状態は温め、熱した状態は冷ますというように、カラダ全体のバランスを整えることで治癒、健康の回復・維持を目指す、バランスの医学です。

漢方薬とは?

漢方薬とは?

東洋医学的に治療を行う上で主に用いられるのは漢方薬による治療です。その他、鍼灸、気功、指圧、整体、養生などもありますが、当院では西洋医学的診断に基づき適切な場合において漢方薬による治療を行います。

漢方薬は様々な生薬が一定の法則の元に配合されており、各種病態、症状、それから患者様の体質を考慮し、総合的に治療をする形を取っています。高齢者など多臓器に疾患が及ぶ方に対しては多剤を併用することなく単一の漢方薬で治療を行う事もあります。またも、「心身一如」の考え方のもと体(症状)に対して有効な生薬と心に対して配慮のある生薬を組み合わせて組成されているものもあります。また、患者様の自覚症状を重視して漢方薬を選択するので、検査で異常がないと言われたケースにおいても患者様自身に症状があれば、ここに着目し適切な漢方薬を投与し治療を行います。

昭和40年代以前は煎じ薬にて漢方薬が服用されてきましたが、医療用漢方エキス製剤が保険薬価収載されて以来、各社から漢方エキス製剤が発売され、現代においては細粒、顆粒、錠剤、丸剤、軟膏剤などの製品が医療の現場において処方されています。当院におきましても患者様のライフスタイルに合わせた服用しやすい漢方薬を保険医療の範囲内で処方します。

東洋医学の診断と治療

生体のゆがみは時として体の部位に異常として出現します。例えば、月経不順の場合、お臍のななめ下あたりを押すと痛みが生じ、微小循環不全(≒血行が悪い)が生じています。東洋医学では微小循環不全の事を「瘀血(おけつ)」といいますが、「瘀血」があるかないかを調べる為にお臍の左下の圧痛点を軽く押して診断を行います。また「瘀血」を持っている人の舌の裏側を診ると血管が怒張し紫色がかったいかにも血の流れの滞りがありそうな舌になっています。

また、肌トラブル(にきび)でご相談頂いた女性の方にお通じのある無しについて尋ねることがあります。西洋医学的診断と治療においては肌の状態(にきび)を確認し、その状態に至った原因(アクネ菌)を鎮める為の治療(抗菌薬)を行います。東洋医学的診断と治療においては、生体のゆがみを戻すという観点のもと、全身を総合的に診た上で治療方針を決定します。前述の通りお腹を押したり舌の状態を診たりすることもあります。一見関係なさそうな便秘と肌トラブルですが、便秘が解消すれば肌の状態が良くなることを多々経験しています。どんな些細な体の不調でも結構ですので、何でも教えて下さい。

東洋医学(漢方治療)が有効である疾患

東洋医学(漢方治療)が有効である疾患

漢方薬による治療は、現代医学では完治しない症状・疾病の治療に適しています。
例えば

  1. アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎・関節リウマチなどのアレルギー・免疫異常
  2. 月経困難・不妊・産後の体調不良・更年期障害などの女性特有の問題
  3. 慢性の痛みやしびれ
  4. 悪性腫瘍の補助療法として
  5. 冷え性、疲れやすい、胃腸が弱い、風邪をひきやすい、などのいわゆる体質的問題
  6. ストレスが身体症状として現れている状態、など多彩な症状の方々です。

これらの患者様の症状が漢方薬で治る例は多々あります。
また、西洋薬で副作用が出やすい方や、虚弱で体が西洋医学的治療に耐えられない方にも漢方薬は効果的です。

漢方薬の副作用

薬剤には作用がある反面、副作用があります。漢方薬も例にもれず、薬効(作用)がある反面、副作用があります。漢方薬で一番出やすい副作用は、甘草(かんぞう)が配合されている漢方薬を長期間服用することによる、低カリウム血症です。漢方薬を長期的に服用していて倦怠感が生じた場合は、服薬を一旦中止し、主治医に相談して下さい。その他、薬剤アレルギーである肝機能値の上昇、間質性肺炎などがありますが、発生頻度はごく稀であり、新薬に比べると安全安心な薬剤と言えます。

当院が目指す西洋医学と東洋医学を融合させた治療

東洋医学は前述の通り2000年以上の歴史を持った医学です。漢方薬が生まれた中国(中医学)や、お隣の韓国(韓医学)では西洋医学の医師免許と東洋医学の医師免許が別々になっており、保険医療の中で西洋薬と漢方薬を同時に処方出来るのは日本だけです。

当院では、それぞれの良いところを生かしつつ、広い選択肢の中から患者様にとって最適な医療を提供していきたいと考えています。

『色々と検査をしたが異常が見つからない。しかし実際に辛い症状がある。』

このような悩みをお持ちの患者様も多いのではないでしょうか。いわゆる不定愁訴と言われるようなものや自律神経失調症、~症候群という病気、西洋医学では対処できず、困っているつらい病気や症状に対しても東洋医学なら緩和・治療できる可能性がありますので一度ご相談下さい。

疾患別漢方治療

症状に合わせた漢方を

当院では、患者様の症状に合わせた漢方を処方しています。風邪や胃の症状、のど痛みから婦人科系疾患、更年期障害や冷え性、神経痛などに疾患に合わせた漢方治療を行います。また最近では認知症や加齢に伴う不調などに効果的な漢方薬も注目されています。西洋医学では対処できず、困っているつらい病気や症状に対しても東洋医学なら緩和・治療できる可能性がありますので一度ご相談下さい。

風邪症候群

熱の風邪、おなかの風邪

熱の風邪・お腹の風邪かぜ(風邪症候群)と一言で言っても、その種類は様々です。 症状も、熱が出る、くしゃみや鼻水、せきが出る、のどが腫れる、吐き気や腹痛、下痢などがあります。

かぜの原因のほとんどが、ウイルスによる感染です。感染し発熱が起こるのは実は体を温める事により本来もっている免疫力や抵抗力を高めて、この力によってウイルスを駆逐しようとする生体の正常な防御反応である為、本来は熱を下げるべきではありません。

しかし、中には高温状態の持続によって体力が著しく消耗してしまうことがあります。このような場合、熱を下げなければいけません。
この場合、市販薬でも販売されており解熱鎮痛剤として多用されるアセトアミノフェンなどが用いられます。詳しい作用の仕方は不明ですが、中枢(脳など)に作用することで熱を下げたり痛みを抑えたりしていると言われています。

しかし、先ほども述べた通り、発熱は正常な生体防御反応であり、ここを助けてあげるのが漢方薬の役割です。
「かぜ」は漢方の得意分野の一つと言われる理由です。
特に高齢者のかぜは体力が低下して起こることが多いので、漢方の治療が力を発揮します。

代表的な漢方薬を紹介します。
ひき始めのかぜで、熱があるのに寒気がゾクゾクし肩周辺がこわばる場合には葛根湯(カッコントウ)が用いられます。
インフルエンザなど高熱の場合は麻黄湯(マオウトウ)が用いられます。
高齢者の風邪には麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)、風邪を引いて数日が経ち、こじれてしまった場合は柴胡が入った小柴胡湯(ショウサイコトウ)や柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)などが用いられます。

のどの痛み、咳

のどの痛み、咳症状別には、喉が激しく痛む場合には小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)、いわゆる鼻かぜには小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、お腹の風邪には五苓散(ゴレイサン)や柴苓湯(サイレイトウ)などが用いられます。

咳は少し細かく使い分けが必要です。湿性で痰が絡むか絡まないか、口内や喉が渇く空咳かで使用する漢方薬が変わります。
風邪の初期で顔が真っ赤になるぐらい激しい咳込みの場合は麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)や五虎湯(ゴコトウ)が用いられます。また、葛根湯に膿を取る辛夷を加えた葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)や鼻症状もあれば小青竜湯(ショウセイリュウトウ)が用いられますが、まずは発熱など身体にとって辛い症状を重要視して、前述の薬剤を選択することが多いです。熱が下がって体が回復に向かっているにも関わらず咳がなかなか治らないこともしばしば経験します。中枢性の咳止めではかえって口渇を助長し、空咳を悪化させてしまう事があります。空咳の漢方治療のファーストチョイスは麦門冬湯(バクモンドウトウ)です。竹筎温胆湯(チクショウンタントウ)は胃腸機能を高め、痰を除きます。高齢者で体力がなく痰がなかなか切れない咳には滋陰至宝湯(ジインシホウトウ)や滋陰降火湯(ジインコウカトウ)が用いられます。

その他、喉のつまり感には半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、炎症所見があれば小柴胡湯を加えた柴朴湯(サイボクトウ)が用いられます。

養生

養生風邪(ウイルス感染症)は抵抗力、免疫の低下により引き起こります。
年中風邪を引いたり治ったりを繰り返す抵抗力の落ちている方は、免疫UPの為に補中益気湯(ホチュウエッキトウ)や人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)を服用しても良いと思います。どちらも高麗ニンジンが配合されており、滋養強壮に効果的ですので、服用を続ければ体力が付き食欲も出てきます。

風邪を引いてしまった場合は

  • 安静にし休息を取る
  • 保温、保湿を心掛ける
  • 栄養分が高く消化の良いものを摂取するよう心掛けましょう。
  • 漢方

前述の葛根湯に含まれる葛根はクズ、生姜はショウガ、大棗はナツメであり、体を温めます。また、消化吸収を促進する陳皮はミカンの皮を干したものです。漢方薬の考え方は医食同源です。普段から養生を行いながら風を引かない体を作っていきましょう。

ウイルスに感染してしまった場合においても罹患する個体の体力や抵抗力、ひき始めやこじれた時期など、体の反応が異なるので、それらにあった漢方薬を選ぶことが必要です。こじれる前にご相談下さい。

消化器疾患

胃の症状

胃の症状消化器疾患とは、消化管(食道、胃、十二指腸、小腸、大腸)をはじめとして肝臓,胆のう,膵臓などに関係する病気のことで、実に多くの疾患があります。それらに付随する症状としては腹痛や胸焼け、嘔吐、食欲不振、便通異常など様々な症状が見られます。

例えば急に胃腸が痛む場合には、西洋薬による治療や、内視鏡検査を優先するケースもありますが、特に慢性的な胃痛には漢方薬も有効です。
これらを症状別や、その方の体質別に漢方薬を使い分けることでより効果的な治療をすることが可能です。上部消化管(胃の症状)のファーストチョイスは六君子湯(リックンシトウ)になります。漢方薬の中でもEBM(有効性、安全性の科学的根拠)がしっかりとしている薬剤で、消化管の動きを良くしたり、胃から腸へ食物を流す排出能、摂食ホルモンであるグレリンに作用し、食欲不振を改善すると言われております。その他、冷たいものの摂り過ぎなど、冷えると胃に痛みが生じる方は安中散(アンチュウサン)、同じく冷たいものの摂り過ぎでお腹が痛み下痢などの場合は、人参湯(ニンジントウ)が用いられます。

また、現代はストレス社会と言われておりますが、ストレスにより胃腸疾患を訴えられる方も少なくはありません。実は、よくテレビCMにてこれらの商品が宣伝されていますが、中身は漢方薬が配合されているものが多いのです。ストレスによる神経性胃炎には前述にも記載がある半夏瀉心湯、またのどが詰まったような感覚や息苦しさがある場合は半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)や半夏厚朴湯合茯苓飲(ハンゲコウボクトウゴウブクリョウイン)を用います。

お腹の症状

お腹の症状消化管の機能が低下している状態では食欲がなく、軟便ないし慢性的な下痢となり、また顔面蒼白や四肢のだるさなども見られます。こういった場合には前述の六君子湯(リックンシトウ)が幅広く用いられます。お腹の冷えが顕著で痛む場合は人参湯(ニンジントウ)も用いられます。

消化不良を起こし、悪心・嘔吐・げっぷなどが見受けられると平胃散(ヘイイサン)を用い、加えて、軟便・下痢が見られますと半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)、感染性の胃腸炎などによる水瀉性下痢には五苓散料(ゴレイサンリョウ)や柴苓湯(サイレイトウ)が有効です。

また、便秘には「大黄(ダイオウ)」という生薬が配合されている方剤が中心となります。なぜなら腸管を刺激し蠕動運動を促進する作用があるからです。また芒硝(ボウショウ)などは腸に潤いを与える作用により排便を促します。こういった様々な生薬ごとの組み合わせで、なるべく単一作用とならないよう、体へ負荷がかからないように便秘を改善していきます。大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)は便秘以外に特に不調や訴えがない方へ、芒硝を加えると調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)という漢方薬になります。ご高齢の方へは潤腸湯(ジュンチョウトウ)という方剤もおすすめです。大黄に加え、腸に潤いを与える麻子仁(マシニン)や桃仁(トウニン)・杏仁(キョウニン)という植物の種子が配合されており、コロコロした乾燥便の場合に用いられます。もう少し作用を強めた麻子仁丸(マシニンガン)が用いられることもあります。女性の便秘には血行を促進する桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)が用いられます。

婦人科疾患

月経関連疾患

月経関連疾患中国最古の医学書「黄帝内経(こうていだいけい)」によると男性は8の倍数ごと、女性は7の倍数ごとに節目を迎え、体に変化が訪れるという記述があります。現代女性のライフサイクルにおいても、小児期(0~7歳)、思春期(8~19歳)、成熟期(20~45歳)、更年期(46歳~55歳)、老年期(56歳~)に分けることができ、太古の昔より人の体がさほど変わらないという事が分かります。女性のライフサイクルは主にエストロゲンとプロゲステロンという2つのホルモンによって緩やかに変化していきます。

思春期~成熟期にかけては、月経を迎えると同時に、進学や就職、恋愛・結婚・妊娠・出産・育児など人生の大きなイベントをいくつも経験し、社会進出と共にその責任の重圧を感じたり、ストレスから心身のバランスを崩しやすい時期でもあります。ストレスによって引き起こされる女性の疾患に自律神経失調症があります。自律神経は、呼吸・循環・消化などの生命活動の緊張を高める「交感神経」と、緊張を鎮めてリラックスさせる「副交感神経」によって成り立っていますが、この2つの神経の切り替えがうまくいかなくなり、様々な不調をきたした状態を自律神経失調症と呼んでいます。その症状は、疲労感、のぼせ、冷え、動悸、めまい、月経不順など多岐にわたります。

症状に対応する処方を具体的にあげると、疲労感には滋養強壮の人参が配合されている補中益気湯(ホチュウエッキトウ)、のぼせには血の巡りのバランスを整える桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)、イライラが伴えば加味逍遙散(カミショウヨウサン)も良いでしょう。冷えには人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)や、むくみを伴えば当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、動悸やめまいには柴胡加竜骨牡蠣湯(サイコカリュウコツボレイトウ)、ふらつきに半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)が良い適応となります。

また、月経不順には漢方薬の婦人科3大処方と言われている当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、加味逍遙散(カミショウヨウサン)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)を体質や体格、随伴する症状によって使い分けます。その他様々な症状に漢方薬による治療は有効です。

更年期障害

更年期障害閉経前後の約10年間を「更年期」と呼びますが、この時期、女性の体は卵巣機能の低下に伴い、様々な不調にみまわれます。ホルモンバランスの乱れによる身体症状の改善にはホルモン補充療法が有効でありますが、漢方薬治療も心と体両面に作用し症状の改善に役に立ちます。漢方治療には基本的に、自律神経失調症の治療と同様に症状の有無、体質・体格などを考慮しながら選択していきます。当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)は色白でむくみやすく体力虚弱の方に、加味逍遙散(カミショウヨウサン)は同じく虚弱~ふつうの方の神経質でストレスをため込む方に、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)はガッチリ型で便秘や肩こりがあり、頭はのぼせるが手足末端は冷えている方が対象となります。その他の漢方薬も含めて体質や体格、随伴する症状によって使い分けることが、漢方薬には可能です。

専門的な治療の場合を除き、患者様の症状に適した漢方薬をご提案します。検査値に出ない心身の不調などをお聞かせ下さい。

整形外科疾患

肩こり、足のつり、冷え

肩こり、足のつり、冷え高齢化社会が進んでいる中で、慢性的な関節痛や、首・肩・腰などの各部位の痛み、手足のしびれなどを訴える方が増えています。全ての痛みに対し漢方薬で治療というわけにはいきませんが、特に慢性痛で長い間悩まされているような患者様へ漢方薬を用いることにより、日常生活の質の向上に繋げていきたいと考えています。患者様の中で、筋肉の痙攣による「こむら返り」を経験された方はいらっしゃいますか?
漢方薬では芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)という特効薬があることはあまりにも有名です。

また、生薬の中には麻黄や附子と言われる鎮痛作用を持つものも存在し、これらを配合している漢方方剤は特に整形外科領域では多用されます。

例えば、漢方薬の代表的な風邪薬として有名な葛根湯ですが、こちらは「肩こり」に適応を持つ薬としても有名です。麻黄の鎮痛作用と、葛根は後背部の血流改善作用があるので、痛みや筋肉のこりを改善します。他には、肩こりに限らず冷えが要因で腰痛やこりが悪化する方には桂枝加苓朮附湯(ケイシカリョウジュツブトウ)が用いられます。しもやけの薬として有名な当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキカシギャクゴシュユショウキョウトウ)も四肢の冷えの改善につながります。

坐骨神経痛、変形性膝関節症

坐骨神経痛、変形性膝関節症ご高齢の方の腰痛や坐骨神経痛には加齢症状への適応がある八味地黄丸(ハチミジオウガン)が用いられます。下肢の痺れや、夜間頻尿も改善が期待できますし、さらに生薬を加え下肢の浮腫みにも対応した牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)も用いられます。また、痛みが改善しない場合、水分代謝異常であれば五苓散(ゴレイサン)、血流改善を期待するのであれば桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)を併用するケースもあります。

漢方
変形性膝関節症では肥満傾向による腰や膝への負担を軽減する目的で、市販薬としても知られている防風通聖散(ボウフウツウショウサン)を用います。またむくみがあり、膝に水が溜まりやすい方には防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)が用いられます。薏苡仁湯(ヨクイニントウ)は膝関節に熱感や腫脹がある場合に用いられます。人工関節置換術後の熱感のある膝関節痛にも有効です。

漢方薬はどちらかと言うと、炎症が強い急性期よりも血流が悪く冷えがあり、水分代謝が調節できずに慢性化した痛みに効果が期待できます。

最近話題の漢方薬

認知症

認知症高齢化社会が進む日本では、認知症が社会問題になりつつあり2012年時点で462万人と言われている認知症患者様も2025年には700万人を突破するという厚生労働省の推計が先日発表されました。認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)」と推計される約400万人を合わせると、現在でも65歳以上の高齢者の約4人に1人が認知症あるいはその予備群と言われています。この数年で新薬数種類が発売されました。しかし、新薬でも進行を緩めることは出来ますが完治を目指して治療をすることは困難です。そして残念ながら、漢方薬治療をもってしても認知症の進行を食い止める事は出来ません。

しかしながら、抑肝散(ヨクカンサン)や抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)を服用することで、認知症の周辺症状(BPSD)である不眠・徘徊・抑うつ気分・不安焦燥感・暴言・暴力・幻覚・妄想などが改善する事があります。最近ではウンシュウミカンの皮を乾燥させた生薬「陳皮(チンピ)」の成分の一つであるノビレチンに記憶障害改善作用を持つ可能性があるという研究成果が発表されました。また、「遠志(オンジ)」にも認知機能検査の改善効果が認められ、これらを配合している人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)もにわかに注目を集めています。

フレイル

フレイル人参養栄湯は最近にわかに話題となっております「フレイル」に有効である可能性が示唆されています。フレイルとは(年齢に伴って)筋力や心身の活力が低下した状態」のことで、高齢者の病気の専門医などが作る「日本老年医学会」が提唱している概念です。日本は世界でも1、2を争う長寿国となりました。しかし、平均寿命と健康寿命(健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間)の間に差があり、晩年をベットサイドで過ごす事を余儀なくされる人が大部分であります。この差を埋め健康で活動的に過ごせるよう、今後は厚生労働省を含めて国としても取り組んでいくようです。

めまい、ふらつき

めまい、ふらつき高齢者のめまい・ふらつきに対しても漢方薬は大変効果的です。実はめまいの西洋薬(抗めまい薬)は1970年代以降新しい内服薬は発売されていません。この分野においては漢方治療は大変有用であると考えられます。水分代謝を調節する生薬が配合されている製剤である五苓散(ゴレイサン)、苓桂朮甘湯(リョウケイジュツカントウ)、柴苓湯(サイレイトウ)などが用いられますが、中でも高齢者や女性で体力や食欲が低下し、いつもフワフワ雲の上を歩いているような浮遊感、ふらつきがある場合は半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)が有効です。

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